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Monday, December 05, 2011

成澤宗男: 南西諸島の軍備強化は安全保障に何の利益もない

11月26日横浜市で開かれた「戦争屋にだまされない厭戦庶民の会11年集会」での成澤宗男氏(週刊金曜日)による講演のレジュメを一部修正したものを紹介します。


中国海軍脅威論と米軍の「統合海空戦闘」
―環太平洋をめぐるパワーゲーム―


週刊金曜日 成澤宗男

1 中国問題を考える上での前提認識
● 常識的に考えたら米中は金融的に融合しており、一部軍事筋が予測する戦争は常識的に考えれば起こりえない。中国は米国債を8400億ドル保有し、これがないと米国の財政は回らない。また中国がウォール街で運用する額は2兆6000億ドルに達し、米金融機関にとって欠かせない顧客である。歴史上、最大の経済パートナーが、最大の軍事ライバルでありえた経験がないが(唯一の例外が、第二次世界大戦前の英独)、しかしながら今後何が起きるか、未知の要因が存在する。その場合、中国以上に不透明なのは米国であろう。

● 中国の戦略は明快だ。彼らは経済至上主義で、繁栄を保証するドルによる自由貿易体制でドルの溜め込みを至上命題とし、米国のヘゲモニーに楯突いて政治を張ろうなどという意思は毛頭無い。彼らの行動は、経済力がついたがゆえに軍事力もつけ、力の誇示と勢力圏の創出をはかりたいのみ。この国はグローバリゼーションの享受国で、ゴールドマンサックスをはじめとする巨大金融資本が中国内株式市場で大きな力を持ち、ボーイングなど米国製造業にとってもお得意様だ。

● 米軍筋が強調するのは、「第二次台湾危機」だ。だが14年前のこの事態と現在の中台間の経済融合は、比較にならないほど進んでいる。台湾企業で中国に進出しているのは2万8000件で、そこで働く台湾人社員は200万人にのぼる。台湾の輸出の3割以上が中国で、海外投資の7割が中国向けだ。実利を重んじる民族である中国が戦争に訴えて得るものはない。

2 中国海軍の「真の実力」
● 日本の『防衛白書』と同様、米統合参謀本部が作成した今年度の『国家軍事戦略』でも、「中国の軍事力強化と、それが台湾海峡の軍事バランスに与える影響」について「憂慮」を表明している。だが、中国の「軍事力強化」といっても、この20年で陸軍は230万人から160万人に減り、空軍機も4500機から1380機に激減した。水上艦は55隻から80隻に増えたが、潜水艦は93隻から62隻に減っている。質的に向上した面もあるが、軍事費の伸びは、経済成長率を考慮すると日本や韓国、台湾と比較して大差はない。軍事費の絶対額も、米国の7分の1以下を推移している。

● また『国家軍事戦略』では、「(中国海軍の)黄海、東シナ海、南シナ海における積極的行動」についても「憂慮」を表明しているが、この三海とも中国の領海が含まれる。にもかかわらず、米軍は昨年11月の米韓合同演習を、北京をゆうに戦闘範囲に含む黄海で実施した。さらに公海に海軍艦隊が進出しても、国際法違反ではない。

● 日本の右派紙が大騒ぎしている「中国海軍空母」も、元をただせば旧ソ連で23年前に製造された旧式艦であり、空母自体はスペインやイタリア、ブラジルなどの国でも保有している。だがこれらの空母は、米海軍が11隻(ニミッツ級10隻、エンタープライズ級1隻)保有する原子力空母と比べ、戦闘爆撃機等の搭載機を含め打撃力・運用範囲圧倒的に劣る。「中国海軍空母」は、中国側にとり「国威発揚」以上の機能は乏しい。

3 中国海軍の「戦略」の限界
● 現在までの中国海軍の基本任務は、南九州-沖縄-台湾-フィリピン北部を結ぶ海洋ライン=第1列島線内で、対アクセス・接近拒否能力を保有することにある。しかしながら、歴史上最強の海軍部隊である第7艦隊を有する圧倒的に優勢な米太平洋海軍の存在を考えたら、中国海軍が第1列島線内で的海軍の侵入をブロックする「対アクセス・接近拒否能力」を保有するのを否定する権利は、米国にも日本にもない。

● さらに米日は、中国海軍が第1列島線を越え、東京-硫黄島-グアム-パプアニューギニアを結ぶ第2列島線に到達しようとしていると批判しているが、外洋に出ても対戦哨戒機を持たず、パッシブ・ソナーを備えた水上艦・潜水艦もない以上、米日の対潜水艦作戦を遂行する能力は限られ、洋上作戦を展開する能力もない。また仮に外洋に出ても、日本やアジア諸国の商業船舶にとっていかなる危機も与えない。一部の軍事アナリストは、第1列島線から第2列島線までの「脆弱性」を唱えているが、中国海軍の意図的過大評価と米海軍の極端な過小評価に基づくデマに等しい。

● さらに米海軍は近年、中国海軍が圧倒的劣勢をカバーするために考案した、CSS-5等大陸からの中距離対艦弾道ミサイルによる空母攻撃について警告を発している。だが、中国側に予測される将来、水平線の彼方で移動する艦船を捕捉・撃破できる射撃装置を開発できるメドはなく、ロシアでも結局開発が断念された。同様に騒がれている増大傾向にある中国海軍艦船の対艦巡航ミサイルにしても、米海軍のトマホークの能力や戦闘爆撃機の攻撃力に対抗できるものではない。

4 米軍の「統合空海戦闘」(ジョイント・エア・シーバトル)とその危険性
● 2010年2月、米国防省は『4年毎の国防政策見直し』を発表し、空海両軍、宇宙、サイバーの全てを動員して中国軍を殲滅する「ジョイントエアー・シー・バトル」(統合海空戦闘戦)を宣言した。これは、中国海軍の「外洋作戦の展開能力を破壊するための作戦、あるいはそれを事前に封じ込めるための作戦を意味する。そこでは「空海両軍が、空、海、陸、宇宙及びサイバーといった全ての作戦領域に渡っていかに能力を統合し、増大する米国の行動の自由に対する挑戦に対抗するかを示す」とされる。

● 米軍が警戒しているのは、主に前述した①地対艦ミサイル②キロ級(ロシア製。旧式)、宋級(国産)などの対艦巡航ミサイル搭載攻撃型潜水艦だ。それに対し米軍は、①宇宙空間における中国人民解放軍の宇宙配備海洋偵察システムの破壊②同軍への長距離侵攻による地上配備航空戦力と対艦ミサイル基地、指揮中枢の破壊③空海一体となった洋上艦隊の撃滅――が計画されている。

● 米軍にとって、中国が南シナ海全域を「核心的利益」(注=最近になって著しくトーンダウン)とした場合、米海軍がヘゲモニー下に置く西太平洋(第7艦隊)とペルシャ湾(第5艦隊)を含むインド洋が分断される。そのため、「米国の行動の自由に対する挑戦」と映る。こうした発想は、「自分がいくら軍備を増強し、それを好きなだけ挑発や脅迫に使用しても許されるが、他国が同じことをしたら許さない」というエゴと思い上がりの産物だ。

● 米国は経済的利害とは別に、軍事は相対的に異なるアプローチを伴っており極めて 政策決定過程が不透明だ。冷戦後の最も重要な戦略文書である『1992国防計画ガイダンス』では、米国は今後、デタントを強いられるような強国(ライバル国)の「出現を許さない」などと公言している。場合によっては軍事衝突も辞さないまでの姿勢に転じる可能性もあるが、その場合、経済はさらに破綻する。この矛盾は明白だが、米国自身が明確さと意思一致を欠いたまま、場合によっては開戦に通じかねない軍事的封じ込めの態勢を固めており、日本の自衛隊まで巻き込んでいる。

5 結語 米軍の軍事作戦に巻き込まれてはならない
● 2010年12月に閣議決定した新『防衛計画の大綱』で、仮想敵国の軍拡に合わせて防衛力を
強化するのを止め、「限定的かつ小規模な侵略」にのみ対応可能な必要最小限の防衛力を保持する「基盤的防衛力構想」(専守防衛。1976年決定)の廃棄を宣言した。   
        
● 新たに採用された「動的防衛力」は、後述する「ジョイントエアー・シー・バトル」と同じ内容で空軍と海軍が一体化した攻勢戦略に他ならない。最終的に自衛隊の専守防衛=「基盤的防衛力構想」は廃棄され、米軍と自衛隊が一体化した海外作戦の実施を目指す。具体的に「動的防衛力」は沖縄・南西諸島での対中国戦を見据えた、「即応性、機動性、持続性及び多目的性」を備えた、軍事力とされる。

● 新『大綱』では、「大規模着上陸侵攻」など「本格的な侵略事態」は可能性が低いとしながら、島嶼への侵攻はあるという矛盾を犯している。誰が、何の目的で沖縄列島のうちの資源もレーダー以外の軍事施設も無い島に侵攻せねばならず、いかなる戦力を駐留させ、 どのように占拠後に補給と維持し、かつ中国軍が制海権・制空権を獲得するのか?
● こうした軍事的妄想はさらにエスカレートし、沖縄の陸自第15旅団を師団化し、2100人から8000人まで拡大。那覇基地の空自戦闘機部隊を20機から40機へ増強予定。11月17日に、与那国島で「自衛隊配備計画住民説明会」。陸自自衛隊沿岸監視部隊(100~200人)、空自移動警戒隊(移動式レーダー部隊)を2015年までに配備へ。また、宮古・石垣両島に200人規模の自衛隊警備隊を駐留させる構想もある。さらに12年度概算要求で、88式地対艦誘導システム(対艦ミサイル)2輌を導入し、中期防衛力整備計画(2011~15)で、計18輌調達予定だ。

●新「大綱」では潜水艦を16隻から22隻に、イージス艦を4隻から6隻に増強。ヘリ空母「ひゅうが」型2隻に加え、より巨大なヘリ空母2隻を建造(2014、2016年就航)するとしている。一方で海自は、自衛隊は東京-グアム-台湾の3地点を結ぶラインを「TGT三角海域」と名づけ、その範囲で潜水艦や新型対潜哨戒機P1、対潜ヘリコプター搭載の新型ヘリ空母「ひゅうが」「いせ」、及びそれより大型のヘリ空母を中心とした新戦力で中国海軍の潜水艦を常時捕捉し、有事の際は攻撃する態勢をとる。これは事実上、米軍の「ジョイントエアー・シー・バトル」に自衛隊が加わり、不可欠の戦力になる。日本はこうした自国の安全保障に何の利益もない、一方的米国追随による愚かな軍事的火遊びを中止しなくてはならない。


成澤宗男
1953年、新潟県生まれ。中央大学大学院法学研究科政治学専攻修士課程修了。政党機関紙記者を務めた後、パリでジャーナリスト活動。帰国後、衆議院議員政策担当秘書などを経て、現在、週刊金曜日編集部企画委員。著書に、『オバマの危険』『9・11の謎』『続9・11の謎』(いずれも金曜日刊)等。

このブログの過去の成澤宗男氏関連の記事はこのリンクをご覧ください。


また、この与那国の自衛隊配備計画が島を分断し、島民の生活の後退を加速するとの危惧を表明した、12月4日琉球新報への投書も紹介しておきます。

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